中型球状トカマク(ST)装置QUEST(九州大学)において、電子サイクロトロン加熱・電流駆動(ECH/ECCD)を用いた非誘導プラズマ電流立ち上げ実験を行った。トロイダル磁場0.13T、垂直磁場32mTの外部磁場条件下で、8.2GHz、35kWの加熱マイクロ波を入射し、最大で約10kAのプラズマ電流を0.8秒にわたって維持することに成功した。磁気計測の結果から閉じた磁気面が形成されていることが確認されており、生成されたプラズマは初期ST平衡に達していると考えられる。このような初期STプラズマにおいて、可動ラングミュアプローブを用いて、電子の速度空間における非等方性に関する計測を行った。プラズマ電流が成長し閉じた磁気面が発現する放電条件において、推定最外殻磁気面(LCFS)表面までプローブを挿入して行き、指向性チップにおける浮遊電位の分布を測定した。正のプラズマ電流を運ぶ電子が衝突するプローブチップにおいて計測した浮遊電位は、LCFSに近づくほど負極性に増大し、LCFS表面で-75V程度となった。一方、逆方向に運動する電子が衝突するチップの浮遊電位は-数V程度に留まった。上記実験と並行して観測したX線信号は、プローブ挿入前は5~10keV程度のエネルギー帯が多く観測されていたが、プローブチップがLCFSに近づくにつれて著しく減少した。にも拘わらず、プラズマ電流値はプローブチップ位置に大きく依存しなかった。以上の結果から、バルク電子(10eV程度)より高エネルギー、且つ高速テイル電子(数keV)より低エネルギーの「中速電子(100eV~1keV程度と推定している)」が速度空間において非等方に存在し、プラズマ電流を担っていることが示唆された。ECHを用いたプラズマ電流立ち上げ手法は、これまで国内の小型ST(LATE(京大)、TST-2(東大)、CPD(九大)等)で主に研究されてきた。本研究によって、中型ST装置においても同様の手法によって電流の立ち上げが可能なことが実証され、同時に電流生成機構を直接担う電子のエネルギー帯が推定できた。
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