まず、分子の凝縮過程の分子動力学計算を行い、分子レーザー蒸留法に最適な凝縮相の温度および入射分子のエネルギーに関する考察を行った。その結果、凝縮層は液相であるよりも固相となるような温度の方が、分子交換現象による分離係数の低下が防げることがわかった。入射粒子のエネルギーは可視レーザー励起による電子励起状態よりも赤外レーザー励起による振動励起程度のエネルギーが分子レーザー蒸留法には最適であることがわかった。次に、文献調査とFT-IRによる吸収波長測定を行い、カルボニル基を有する化合物に関してCOレーザーの発振波長と、吸収波長が一致する化合物の選定を行った。その結果、ギ酸とギ酸メチルが最適であるとの結論が得られた。更に、レーザー照射セルとパワーモニターを用いてCOレーザーの吸収実験を行った。その結果、ギ酸およびギ酸メチルにおいて十分なCOレーザーの吸収が観察された。これらの結果を基に、ギ酸-ドライアイス・メタノール冷媒およびギ酸メチル-液体窒素冷媒のシステムを用いて分子レーザー蒸留法による同位体分離実験を行った。ギ酸メチルを用いた場合に、COレーザー照射による収率(分離セル内で凝縮せずに下流に流れ込む分子の割合)の有意な上昇が確認できた。そして、下流部で回収されたギ酸メチルの炭素同位体組成を質量分析計で測定を行った結果、同位体の濃縮が観察され、分離係数として1.033という値が得られた。
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