近年、がん治療の分野において高エネルギーの陽子や重粒子を利用した治療が始まり、陽子線や重粒子線と人体組織との相互作用に関する精度のよい物理モデルの構築が求められるようになった。粒子線によって物質中で生じる電離の空間分布等の極微小スケールの物理現象は、従来直接観測することが困難であり、そのため現在までに考案された相互作用の物理モデルには実験データによる裏づけがほとんどない。そこで本研究では、マイクロパターンガス検出器の技術を応用することにより、低圧の人体組織等価ガス中で医療用重粒子線の飛跡に沿って生じる3次元の電離分布を直接測定することを目的として研究を行った。具体的には、マイクロパターンガス検出器の一つであるガス電子増幅器(GasElectron Multiplier ; GEM)を用いたタイムプロジェクションチェンバー(Time Projection Chamber ; TPC)を中心とした検出器システムを製作し、実験を行うことを予定している。 初年度である平成20年度は、テストチェンバーの製作とGEM検出器の動作テストを主な目標として研究を行った。テスト用チェンバーは、九州大学で所有している真空チェンバーに必要な加工を施したものを使用し、GEM及び信号読み出し回路を製作してチェンバー内に設置した。最終的な検出器システムでは、GEMを組織等価ガス中で低圧で動作させる必要があるため、標準線源を用いて様々な圧力条件の下で動作特性を調査した。また、従来用いられている比例計数管用混合ガスを用いて同じ圧力条件で測定し、動作特性を比較した。その結果、検出器システムの設計に必要な基礎データを得ることができた。得られた成果の一部は、学会で発表を行った。
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