近年、がん治療の分野において高エネルギーの陽子や重粒子を利用した治療が始まり、陽子線や重粒子線と人体組織との相互作用に関する精度のよい物理モデルの構築が求められるようになった。粒子線によって物質中で生じる電離の空間分布等の極微小スケールの物理現象は、従来直接観測することが困難であり、そのため現在までに考案された相互作用の物理モデルには実験データによる裏付けがほとんどない。そこで本研究では、マイクロパターンガス検出器の技術を応用することにより、低圧の人体組織等価ガス中で医療用重粒子線の飛跡に沿って生じる3次元の電離分布を直接測定することを目的として研究を行った。具体的には、マイクロパターンガス検出器の一つであるガス電子増幅器(Gas Electron Multiplier : GEM)を用いたタイムプロジェクションチェンバー(Time Projection Chamber : TPC)を中心とした検出器システムを製作し、実験を行うことを予定している。 二年目に当たる平成21年度は、昨年度に製作したテストチェンバーを用いて様々な基礎特性の調査を行った。一般的に用いられている組織等価ガスとしてメタンベースのものとプロパンベースのものを使用し、様々なガス圧の下で標準線源を用いたテストを行った。調査した特性は、各ガス圧条件下でのガス増幅率とエネルギー分解能である。また、使用した線源は主としてFe-55・X線源である。一連の調査により、最終的な検出器システムの使用条件を決定するのに必要な基礎データを得ることができた。また、低ガス圧下における疑似パルス発生現象を確認し、その発生原因について考察した。得られた成果の一部は、国際会議で報告を行った。
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