近年、がん治療の分野において高エネルギーの陽子や重粒子を利用した治療が始まり、陽子線や重粒子線と人体組織との相互作用に関する精度のよい物理モデルの構築が求められるようになった。粒子線によって物質中で生じる電離の空間分布等の極微小スケールの物理現象は、従来直接観測することが困難であり、そのため現在までに考案された相互作用の物理モデルには実験データによる裏付けがほとんどない。そこで本研究では、マイクロパターンガス検出器の技術を応用することにより、低圧の人体組織等価ガス中で医療用重粒子線の飛跡に沿って生じる3次元の電離分布を直接測定することを目的として研究を行った。具体的には、マイクロパターンガス検出器の一つであるガス電子増幅器(Gas Electron Multiplier : GEM)を用いたタイムプロジェクションチェンバー(Time Projection Chamber : TPC)を中心とした検出器システムを製作し、実験を行う。 最終年度に当たる平成22年度は、昨年度までに製作したテストチェンバーを用いた調査を行った。使用した検出器ガスは主としてプロパンベースの組織等価ガスを使用し、様々なガス圧の下で標準線源を用いた測定実験を行った。調査した特性は、各ガス圧条件下でのガス増幅率、エネルギー分解能のほか、入射粒子線による電離の3次元位置測定の基礎となる電離電子のドリフト時間特性等である。また、位置読み出しのための2次元位置読み出し電極の製作も行った。一連の調査、開発により検出器システムをTPCとして動作させ、入射重粒子による電離の3次位置分布の測定が可能となった。今後、得られた成果を国内外の学会で報告するとともに、学術論文誌に投稿する予定である。また、検出器システムは今後も維持し、継続して実験を行っていく予定である。
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