本研究では、大阪大学核物理研究センターRCNPのサイクロトロン加速器施設のビーム・スウィンガー・マグネットを用いて、180度方向の陽子入射核反応に対する中性子微分断面積の測定と運動源模型の構築を行うことを目的とする。平成20年度は、150MeVの陽子ビームとリチウム、鉄、鉛のターゲットを用いて、本測定のための環境整備及び試測定を行った。具体的には有機液体シンチレータの中性子検出器の前面に鉄ブロックのシャドーバーを設置し、中性子・γ線の床・壁散乱の影響を調べた。その結果、バックグラウンドの主な成分はγ線であることがわかり、波形弁別により良く弁別することができた。また床・壁散乱の中性子のエネルギーは主に1MeV以下で、中性子検出器の測定可能範囲である1MeV以上の中性子を精度良く測定できることがわかった。 試測定で得られた180度方向の中性子生成断面積を、量子分子動力学QMDモデルおよび核内カスケードモデルBertiniによる計算結果と比較した。Bertiniモデルに比べて核子-核子の相互作用を精密に計算できるQMDの結果は、中性子放出に関する核温度を良く再現することがわかった。 これらの成果から、RCNPにおいて180度方向の中性子測定が可能であること、運動源模型に必要な核温度を得られることがわかった。今後、異なる入射エネルギー・ターゲット核種を用いて中性子生成断面積を収集し、運動源模型に必要な系統的なパラメータを得る見通しを得たことは大変意義深い。
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