研究概要 |
本研究では、大阪大学核物理研究センターRCNPのサイクロトロン加速器施設のビーム・スウィンガー・マグネットを用いて、180度方向の陽子入射核反応に対する中性子微分断面積の測定と運動源模型の構築を行うことを目的とする。平成21年度は、前年度のテスト測定の結果を受けて、140MeVの陽子ビームと薄い炭素、鉄、金ターゲットを用いて、中性子生成二重微分断面積の本測定を行った。中性子やガンマ線等の床・壁散乱の影響は30cm厚さの鉄シャドーバーを検出器前面に設置することで調べた。中性子エネルギー導出は飛行時間法を用いた。 解析の結果、中性子エネルギー1MeV以上の180度における精度良い断面積データを得ることができた。実験データを粒子・重イオン輸送計算コードPHITSに含まれる核内カスケードモデル(QMD, JAM)及び評価済み核データ(JENDL-HE, LA150)と比較した。鉄と金ターゲットに関して、計算結果はJAMモデルを除いて良く一致した。JAMモデルは核内の核子-核子の相互作用を十分に記述できていないために、高エネルギー中性子の放出が抑えられることがわかった。炭素ターゲットに関しては、すべての計算によるエネルギースペクトルの形状が実験データを再現しなかった。また、実験のスペクトルデータは4-10MeV付近に小さな肩を持つが、計算はいずれも再現しなかった。今までこのようなデータが出ていないことから、実験データを再度チェックする一方で新しい物理現象が期待される。 来年度は得られたデータを運動源模型で解析し、論文投稿及び核データ国際会議2010での口頭発表を行い、成果を世界に広く発信する。
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