我々は、陽電子マイクロビームを用い、原子力材料分野で大きな関心を集めている、ステンレス鋼の応力腐食割れに起因する材料劣化に関する評価を行った。試料には沸騰水型原子炉の炉内環境を模擬した高温水中で応力腐食割れ(SCC)を起こしたステンレス鋼を用いた。 SCC先端の亀裂近傍における消滅ガンマ線のピーク強度変化から、空孔型欠陥の発生状況を調べたところ、光学顕微鏡で確認される亀裂最先端部よりも離れた部位においてSパラメータ上昇が見られた。この部位での詳細な電子運動量分布を測定し、第一原理計算による欠陥モデル計算と比較したところ、単空孔程度の大きさの微細な欠陥であることが分った。これより、ステンレスの応力腐食割れにおいても、亀裂の先端部において光学顕微鏡や電子顕微鏡など従来での測定法では判別できない原子空孔が存在することを示唆する結果が得られた。また、亀裂の進展は材料の耐食性(熱鋭敏化度)が低下することによって促進されることが分かった。空孔型欠陥の分布については、亀裂の進展が容易である試料ほど明瞭であった。これより、亀裂の進展には空孔型欠陥が関与していると思われる。
|