使用済み核燃料からマイナーアクチノイド(MA)を分離するプロセスでは、抽出剤が強い放射線場に曝されるため、抽出剤の放射線化学的劣化を回避することは難しい。特に、MA分離用抽出剤はα核種と特異的に錯形成するといった特性をもつため、β線やγ線の照射だけでなく、線質の異なるα線の照射による抽出剤の放射線分解挙動を把握することが重要である。 α線放出核種を内部線源に用いてα線の照射実験を行う場合、長期にわたって経時変化を追跡しなくてはならないことから、α壊変によって生じる娘核種や共存する硝酸の影響なども考慮しなくてはならず、きわめて複雑な系といえる。また、長寿命のα核種で一度汚染された抽出剤の分解生成物を分析するのは、既存の設備では汚染を拡大させる恐れがあり不可能である。 そこで、本研究ではこれらの問題を解決するため、AVFサイクロトロンおよび3MVタンデム加速器を利用して、α粒子に相当するヘリウムイオンビームを外部から抽出剤に照射するための条件を整備した。イオンの照射エネルギーは、それぞれ遮蔽材として用いたアルミ箔の厚さ、照射窓面から照射試料までの空気層の距離で調整した。フルエンスは、ファラデーカップで測定したビーム電流値と試料の照射時間から求まる計算値を、固体飛跡検出器CR-39を用いて実測した値で補正した。 ここで確立した照射手法を用いることにより、α放射能汚染の無い照射後試料を、従来のγ線照射実験の場合と同様に生成物分析を行うことができるとともに、イオンビームの電流値を大きくすることで短時間での照射が可能となり、内部線源を用いる照射実験に比べ飛躍的に照射時間を短縮することに成功した。
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