前年度までに、γ線や電子線パルスの照射に加え、加速器から生じるα線(Heイオン)の照射実験を行い、線質の違いによって放射線分解のメカニズムが異なることを明らかにしてきた。今年度は、抽出性能におよぼす放射線の影響を明らかにするため、以下の実験を行った。 ・放射線劣化溶媒を用いる抽出実験:加速器を利用してα粒子に相当する5 MeVのHeイオンを、MA分離用抽出剤テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)のドデカン溶液に照射した。照射により劣化した抽出溶媒と、Amイオンを含む3.0M硝酸水溶液とを抽出平衡に達するまで十分に振とうした後の有機相、水相中の放射能濃度の比から分配比を求めた。その結果、吸収線量が200kGyを超えてもHeイオン照射による分配比の劣化は認められなかった。 ・内部線源によるα線照射実験:0.86MBqの放射能をもつAm-TODGA錯体のドデカン溶液を調製し、3.0M硝酸水溶液と十分に振とうした後の有機相-水相間のAmイオンの分配比の経時変化を追跡した。TODGAが受けるα線の吸収線量率は1日あたり1KGyにも満たないため長期間の観測を要したが、200kGy程度のα線を吸収しても錯形成能に有意な劣化は認められなかった。 後者の実験では、放射能毒性の高いα核種の取扱量に制限があることから吸収線量率が低く、また長寿命のα核種で抽出剤が汚染されるといった欠点がある。それに対して、前者の加速器を利用した実験では、照射電流を大きくすることで短時間での照射が可能な上、抽出剤のα放射能汚染が生じないため照射後試料の分析が容易であるといった利点がある。 吸収線量に対する分配比の変化を比較すると両者で大きな違いは観測されなかったことから、実プロセスでの放射線場の環境に近い後者の実験を模擬する手法として、前者の加速器を利用した実験が有効であることを確認できた。
|