今年度は、粒径を4~5nm程度に制御した白金(Pt)等のナノ微粒子に対して、核種、エネルギーやフルエンスなど異なる条件の下でMeV級イオンビームを照射し、その触媒活性を表す電気化学特性への照射効果に関する研究を継続させるとともに、照射効果の起源を明確にするため、粒径、結晶性、化学状態をはじめとする詳細な特性を明らかにした。具体的には、以下のとおりである。 実験ではまず、イオンビームスパッタ法によりグラッシーカーボン基板上に粒径4nm以下の微粒子を堆積した。主にスパッタ出力、雰囲気、基板温度などの条件によって、量子サイズ効果を発現し触媒活性が高い粒径約5nmのPt微粒子を得た。これらの試料に対し、エネルギー10MeV、0.38 MeVのプロトンビームを室温で照射した。照射後、硫酸水溶液中でサイクリックボルタムグラム(電流電圧曲線)を取得し、水素波の積分値から触媒比表面積(電気化学活性表面積)を求めたところ、より低エネルギービームの照射により増大することが見出された。この結果に対しては、走査型・透過型電子顕微鏡の観察から粒径変化による活性向上ではないこと、またX線光電子分光分析から表面化学種の変化が伴わないことが明らかになり、イオンビーム励起と量子化されたナノ微粒子の表面電子系とが結合したことによる局所的な構造変化が原因と考えられる。 以上のように、イオンビーム照射で表面状態の制御された金属ナノ微粒子の固体高分子形燃料電池用触媒への応用性を探索し、研究全体を総括した。
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