本研究の目的は、ebony遺伝子の5領域の変異が交配相手選好性に直接関与しているかどうか、またそれはどのような組織の発現を通して起こっているのかを実験的に明らかにすることである。これまでに、遺伝子上流領域のうちの一部約900bpをGal4につないで形質転換した系統をUAS-GFP系統とかけあわせ、そのエンハンサー活性を調べる実験を行なった結果、羽化直後の成虫について胸部三叉模様の色素沈着パターンがあらわれる部位に発現を誘導する活性があることが明らかとなっている。H21年度は、phiC31システムを用いてゲノム内の同じポジションに上述900bpをlacZレポータを挿入したハエを作成し体色の異なる2つのタイプの間でエンハンサー活性が違うことを明らかにした。これは、これらの系統のF1雑種でのcDNA量を比較するという方法で、パイロシークエンサーを用いて行った。また、ebony遺伝子は、神経系でも多面発現することが知られており、ebony遺伝子の胸部での発現量が異なる系統について、脳での発現量にも違いがあることがわかった。これは、ebony遺伝子5領域の変異が何らかの行動の違いと結びついていることを強く示唆する結果である。しかし、上記900bpの領域が神経系(脳)において発現を誘導するエンハンサー活性を持つ可能性は低いことも示唆された。現在、脳での発現を誘導ずる領域を特定するため、より広い範囲の領域の転写誘導活性を調べている。また、これらの成果をもとに、上述の形質転換体を用いた行動実験も進めている。
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