研究概要 |
本研究の目的は降海型サクラマスを対象生物として,死亡率(海洋生活期の死亡率)と体サイズ(成体の体サイズ)双方の性差の進化的関連性についての知見を提供することである。 今年度の主な調査項目は,海洋生活期の死亡率を検証するためのデータであるスモルト(降海型幼魚)と回帰親魚の性比を調べること,および回帰親魚の体サイズ・データを得ることである。なお,今年度の主要な調査河川は,北海道の別々川と奥津内川であった(予備調査は,他の約10河川においても行った)。 上記2河川におけるスモルトの雌の割合は,別々川では75.0%(N=48),奥津内川においては89.9%(N=89)であり,両河川とも昨季とほぼ同じ値であった。また,回帰親魚における雌の割合は,別々川では52.7%(N=55),奥津内川においては76.2%(N=21)であり,両河川とも昨季のスモルトの性比と比べ,回帰親魚の雌の割合が有意に低下していることが明ちかになった。この雌の割合の低下は,両個体群において海洋生活期の死亡率は雄と比べ雌の方が高いことを強く示唆している。回帰親魚の体サイズは,別々川では雌の平均尾叉長が488mm(N=29),雄では435mm(N=26),奥津内川においては雌が507mm(N=16),雄では445mm(N=5)であり(ただし雄の尾叉長は,雌の体型に換算した場合の値である),両河川とも雌の方が有意に大きかった。両河川において昨季のスモルトの体サイズに雌雄差は認められなかったことから,上述の回帰親魚における体サイズの性差は,両個体群とも海洋生活期の成長率は雌の方が高いことを示している。 まとめとして,昨年度および今年度の野外調査により,「雌が大きい個体群では雌の死亡率が高い」という性差形質の進化的関連性に係わる予測を検証するうえで有益なデータを得ることができた。
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