研究概要 |
本研究の目的は降海型サクラマスを対象生物として,死亡率(海洋生活期の死亡率)と体サイズ(成体の体サイズ)双方の性差の進化的関連性についての知見を提供することである。 今年度の主な調査項目は,昨年度と同様,海洋生活期の死亡率を検証するためのデータであるスモルト(降海型幼魚)と回帰親魚の性比を調べること,および回帰親魚の体サイズ・データを得ることである。 スモルトに関する調査は北海道内の8河川において行った。比較的サンプルサイズの大きかった6河川におけるスモルトの雌の割合(以下,雌率)は,奥津内川の73.1%(N=52)から別々川の90.3%(N=72)までの範囲であった。 2010年に産卵遡上した回帰親魚(2009年降海群)に関する調査は,主に別々川と奥津内川において行った。別々川における回帰親魚の雌率は62.1%(N=58),奥津内川では70.6%(N=17)であり,回帰親魚の体サイズ(平均尾叉長)は別々川では雌が491mm(N=36),雄では441mm(N=22),奥津内川においては雌が490mm(N=12),雄では399mm(N=5)であった(ただし雄の尾叉長は,雌の体型に換算した場合の値である)。2008年降海群のデータと併せて解析した結果,両河川ともスモルトと比べ回帰親魚の雌の割合は有意に低下しており,スモルトの体サイズには雌雄差が認められなかった一方,回帰親魚の体サイズは雌の方が有意に大きいことが判明した。これらの結果は,両個体群において海洋生活期の死亡率は雌の方が高いが,同生活期の成長率は雌の方が高いことを示している。 まとめとして,2008年度から今年度の野外調査により,性差形質の進化的関連性に係わる予測を検証するうえで有益なデータを積み重ねることができた。特に別々川と奥津内川において,2008年および2009年降海群のデータが揃ったことは大きい。
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