研究概要 |
本研究の目的は降海型サクラマスを対象生物として,死亡率(海洋生活期の死亡率)と体サイズ(成体の体サイズ)双方の性差の進化的関連性についての知見を提供することである。 今年度の主な調査項目は,昨年度と同様,海洋生活期の死亡率を検証するためのデータであるスモルト(降海型幼魚)と回帰親魚の性比を調べること,および回帰親魚の体サイズ・データを得ることである。 スモルトに関する調査は北海道内の4河川において行った。それらの河川において計120尾のスモルトが採集され,各河川の雌の割合は,別々川の77.4%(N=31)から茂初山別川の53.7%(N=41)までの範囲であった。 2011年に産卵遡上した回帰親魚(2010年降海群)に関する調査は,北海道日本海側に位置する床丹川と茂初山別川において行った。床丹川においては台風による増水の影響もあり,回帰親魚の採集数は9尾にとどまったが,茂初山別川では30尾と,比較的大きなサンプルサイズを確保できた。その茂初山別川における回帰親魚の雌の割合は66.7%,回帰親魚の体サイズ(平均尾叉長)は雌が493mm(N=20),雄では407mm(N=10)であった(ただし雄の尾叉長は,雌の体型に換算した場合の値である)。茂初山別川の2010年降海群のデータを解析した結果,スモルトと回帰親魚の性比には有意差がなく,スモルトの体サイズには雌雄間で有意な差が認められなかった一方で,回帰親魚の体サイズは雌の方が有意に大きいことが判明した。これらの結果は,当該年級群においては海洋生活期の死亡率に雌雄差がなかったが,同生活期の成長率は雌の方が高かったことを示している。 また,今年度は2008年度以降の野外調査に得られたデータをとりまとめ,その一部を査読制学術誌の"Environmental Biology of Fishes"や国際学会,国内学会において発表した。
|