北海道上川郡における調査の結果、セイヨウオオマルハナバチの女王には、地域によってマルハナバチタマセンチュウが高い頻度で感染していることが判明した。この線虫に感染した女王は、卵巣の発達を抑制され、春に営巣せず、夏まで野外で訪花を続ける。このことが、その地域の送粉相互作用ネットワークの構造に影響を与えることを示唆する結果が得られた。 セイヨウオオマルハナバチは外来の短舌種マルハナバチである。昨年・一昨年の調査から、この外来短舌種マルハナバチの侵入が、長舌マルハナバチの衰退や、それに伴う短舌マルハナバチらの行動変化を引き起こすことがわかっていた。しかし、セイヨウオオマルハナバチは短舌種に分類されるが、体サイズの大きな女王は比較的長い口吻(舌)をもつ。このため、線虫の感染により、セイヨウオオマルハナバチの女王が夏まで採餌を続けると、女王が送粉ネットワークにおける長舌種の役割を一部肩代わりすることになる。つまり、線虫による感染率の違いが、送粉相互作用ネットワークの構造に影響を与える可能性がある。事実、初夏に採餌している女王の割合が高い集団では、働き蜂たちが採餌する花の種類や、採餌方法(正当訪花・盗蜜訪花)に違いが見られることが明らかになった。 今後は、在来種における感染率や、種間の水平感染の実態を明らかにすることで、寄生虫を介して、マルハナバチの種間がどのような相互作用をもっているのかを明らかにし、送粉ネットワークへの影響の強さを査定する必要があると考えている。
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