本研究では、タナゴ類の中で、本州と九州に広く分布する日本固有種のタビラ(Acheilognathus tabira)を用いて、貝を産卵に利用するための適応形質の効果と貝がタナゴに卵を産み込まれることを忌避するための適応形質の効果を検証する。次にその効果を地域間で比較し、形質の進化プロセスを推論することを目的としている。野外調査と集団遺伝学的解析の結果から、本種は適応形質や遺伝的に大きく6つのグループに分かれた。具体的には、1)九州北西部、2)瀬戸内海周辺と濃尾・伊勢平野、3)山陰地方、4)北陸地方、5)フォッサマグナ以東の太平洋側、6)フォッサマグナ以東の日本海側で、この順序で日本に侵入・分化したと推測された。適応形質である卵形は、日本海側が細長いものに対して、太平洋側は球形に近かった。それと対応して利用している二枚貝類も日本海側はドズガイ亜科、太平洋側はイシガイ亜科となっていた。九州北西部の集団は卵が細長いのにもかかわらず、イシガイ亜科のカタハガイを産卵に専門に利用していた。卵形は細長いものを祖先形質とし、球形に近いものが独立に2回太平洋側に進入したときに分化したと推定された。太平洋側には同所的に卵形が細長いタイプの別種であるタナゴ類が生息しており、それらはドブガイ亜科を利用している。卵形は、産卵利用する貝類のタイプと対応関係、すなわち細長い卵はドブガイ亜科に、球形に近い卵はイシガイ亜科を利用することが推測された。タビラは太平洋側に進入するにあたり、競争種との産卵母貝の競合を避けるため産卵利用する貝類タイプをシフトした結果、卵形が分化したと推論した。本年度はこれらを論文としてまとめ、国際誌に投稿した。
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