研究概要 |
マングローブ植物の根が土壌微生物活動へ及ぼす影響について明らかにすることは,マングローブ植物の生育機構の解明や,生態系における役割の解明において重要である.当該年度は,マングローブ植物の生育が土壌の化学特性へ及ぼす影響を実験室における栽培実験によって明らかにする事を目的とした. マングローブ生態系を構成する代表的な3種,ヒルギダマシ,ヤエヤマヒルギ,オヒルギの2年生実生のポット植えを温室(27℃,70%RHD)にて6ヶ月間栽培した.実験開始後30,60,120,180日目に各ポットの土壌水中の無機窒素イオン(NH_4^+,NO_2^-,NO_3^-),リン酸イオン,鉄(II)イオン,溶存メタン濃度,及び土壌窒素含有量,植物体窒素含有量と根酸化鉄皮膜量を測定し,無植生処理と比較を行った.さらに栽培最終日に土壌及び根の窒素固定菌活性を測定し,3種の比較を行った. 今回検討を行ったマングローブ3種では,程度の差はあるものの共通の土壌酸化効果,(i)根表面の酸化鉄皮膜形成,(ii)溶存メタン濃度の減少,(iii)酸化態溶存無機窒素濃度の増加,が観測された.これは,マングローブ植物特有の根系通気システムにより,土壌が酸化されていることを示唆する.また3種全てにおいて,溶存リン酸濃度の増加が確認された.植物には根から有機酸を漏出して可給態リン酸濃度を増加させる能力があるものが報告されている.本研究で観測された最も顕著な変化は土壌窒素含有量で,6ヶ月の実験期間中にマングローブ植生ポット中の土壌窒素含有量は無植生ポットに比べて約4倍に増加した.さらにマングローブ植生ポットの土壌と根において高い窒素固定菌活性が検出されたことから,マングローブ植物の生育と窒素固定菌活動に密接な関係があることが示唆された.
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