本研究では、高等植物における低分子RNAとDNAメチル化の動態と遺伝子発現の制御機構の解明を目的として、アサガオの「吹雪」と「車絞」と呼ばれる模様の形成機構を分子レベルで解析している。このうち「吹雪」は、逆向き反復配列から転写される2本鎖RNAに起因するRNAiがランダムに活性化、不活性化される「RNAiの斑入り状発現」が模様を制御するという仮説を立てている。これを検証するために2本鎖RNAを解析したところ、花弁の非着色細胞と着色細胞の間で蓄積量の有意な差がないことから、模様は2本鎖RNAの転写以降の過程で制御されることが明らかになった。さらに低分子RNAを検出する実験から、逆向き反復配列の領域に相当する配列を持つsiRNAは、着色細胞でも蓄積するが、非着色細胞においてより多く蓄積することが分かった。これらの結果は、RNAiのランダムな活性化が2本鎖RNAの分解によるsiRNAの形成以降の過程で非着色細胞特異的に起こり、「RNAiの斑入り状発現」が現れることを強く示唆する。一方「吹雪」とは異なり、「車絞り」では逆向き反復配列の転写がDNAメチル化により抑制されて模様が生じるとの仮説を立てて検証を進めた。ところが「吹雪」と同様に2本鎖RNAの蓄積量は非着色細胞と着色細胞の問で差がないことなどから、仮説に反して2本鎖RNAの転写はDNAメチル化により抑制されないことが示唆された。現在、体細胞レベルでのDNAメチル化の変化が原因となる別の模様を材料として、人為的なDNAの脱メチル化により模様を制御する手法を開発しつつある。この手法により「車絞」の模様形成とDNAメチル化の関連も検討中である。
|