本研究は、ニューレグリンが感覚神経のネットワーク構築に関与しているという、研究代表者の仮説に基づいてスタートした。そのことを実証するモデルとして、我々は魚類の外部刺激受容器官である側線に注目した。側線は体表面に露出しているため観察が容易である。また、魚類にはゼブラフィッシュという優れたモデル動物がおり、本研究ではゼブラフィッシュの側線をモデルとして採用した。 ゼブラフィッシュの側線ではmRNAレベルでニューレグリンの発現が見られ、ニューレグリンおよびニューレグリンレセプター(ErbB)の機能阻害で側線の形成異常を含む発生異常が見られた。ゼブラフィッシュにおける遺伝子機能阻害の手法は、部位特異的・組織特異的なアプローチが困難である。よって側線非特異的な異常の影響が無視できず、機能阻害実験による詳細な解析は困難であると結論付けた。そこで我々は、水流や振動などの自然環境下で起こりうる刺激に対する側線の形成、およびニューレグリンおよび関連分子の挙動の解析を目標とした。 現在までにゼブラフィッシュ側線器官を観察するためのマーカーとなる分子の抗体、およびトランスジェニックゼブラフィッシュを用い、側線器官およびその周辺の感覚神経系の形成についての調査を行った。ニューレグリンに関しては、膜型と分泌型それぞれの挙動を追跡する目的でポリクローナル抗体の作成を行い、解析を進めている。今後はこれらの材料を用い、側線および周辺の神経系の構築におけるニューレグリンの役割を解明し、それらが外部刺激に応答して変化しうるかどうかを検証する。
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