オタマボヤは、脊索動物の中で最も短時間で、かつ最少の細胞で、完全に機能的な体制を作り上げる。その発生過程において、原腸陥入は受精後約90分後の32細胞期に起こり、3時間後に孵化、10時間後には成体と同じ体制を完成する。本研究は、このオタマボヤの発生の速さと卵の透明性をいかし、ライブイメージングおよび遺伝学的手法を用いて、受精卵から成体に至るまでの細胞分裂・細胞配置の変化・細胞分化過程を完全に明らかにすることを目指している。 (1) 初期発生過程の微分干渉顕微鏡観察による詳細な検討を継続した。初期胚の後極に見出された、連続する不等分裂に伴って核を引き付ける構造(Centrosome Attracting Body)は、2細胞期から左右非対称な位置に生じていること、細胞周期に伴って消長を繰り返すことを明らかにした。これに類似の構造がホヤ胚では、卵割パターンの生成に本質的に関わっている。オタマボヤ胚におけるこの構造の機能と卵割パターンの対応関係を継続して解析した。 (2) 蛍光タンパク質ベースで作られた膜電位感受性色素であるmermaidをオタマボヤ胚に発現したところ、効率よく細胞膜に局在することが分かった。昨年度作製したHistone H2B-mCherryと共発現すると、核の位置と細胞膜の形状を生きたまま明確に観察できることが分かった。 (3) 昨年に引き続き、ワカレオタマボヤへのトランスジェニック技術の適用を進めている。本年度は特に、卵巣に顕微注入することで一度に大量の卵に合成RNAを取り込ませ、発現させる系を確立した。これにより、トランスポゾンの転移酵素を卵巣内に強制発現することにより、トランスジェニック体を高効率に作製できるのではないかと期待し、現在この可能性を精力的に検討している。
|