研究概要 |
本年度の研究成果は以下の5つである.(1)セン類ホソバミズゴケの原糸体が,糸状と葉状の体制を繰り返し出現させながら成長することを明らかにした.糸状原糸体では他のセン類と同様,表層微小管系が見られなかったが,葉状原糸体の細胞には,表層微小管が存在することを確認した.進化の過程で,葉状原糸体が糸状原糸体に先行して獲得されたと考えるならば,糸状原糸体での表層微小管系の欠如は,藻類的な原始的な形質を反映したものではなく,派生的な形質であると考えられた.(2)コケ植物のタイ類の中で最も初期に分岐したと考えられているコマチゴケの塊状原糸体で,蘇類の糸状原糸体とは異なり表層微小管,分裂準備帯が存在することを明らかにした.これらの表層微小管系は陸上植物の主要な系列が分岐する前に獲得されたことが示唆された.(3)タイ類ゼニゴケ類について,細胞質の分裂様式,葉緑体の数と配分様式などについて類型化した.ゼニゴケ類の胞子体の退化的傾向が減数分裂様式の進化にも影響を与えたことを指摘した.研究成果を原著論文として発表した.(4)不定形な外形の葉状体植物であるタイ類ヌエゴケについて,頂端細胞や生殖器官の発生過程を観察し,茎葉性タイ類との共通点を見いだした.分子系統学的な解析もそれを支持した.ヌエゴケの体制は,異時性進化に由来し,葉状原糸体の縁に生殖器官をつけたものと解釈された.研究成果を原著論文として発表した.(5)真核生物の中心体に普遍的に存在するセントリンについて、コケ植物の精子形成を通じた局在変化を解析し、昨年度までに明らかにしたγ-チューブリンの動態と比較した。セントリンが、中心体、微小管、細胞板、鞭毛基部装置など、構造や機能が全く異なる構造に局在したことから、コケ植物にも、動物細胞と同様、機能の異なる複数種のセントリン分子が存在することが示唆された。
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