昨年度に引き続き、トレボキシア藻の分裂様式に着目し、単細胞緑藻から糸状体への細胞連結がどのように生じたかの解明を目指した。昨年度の解析から、Stichococcus bacillarisでは内生胞子形成型と同様に母細胞壁の開裂が起こるが、娘細胞に密着したまま残存するために二分裂することが示された。さらに、対数増殖期に糸状体が形成されることから、娘細胞同士の解離が次のセルサイクルの進行よりも遅れることが糸状体形成の要因であることが示唆された。 そこで、本年度はS. bacillarisの細胞分裂時の細胞壁構造の変化を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、分裂溝とトライアンギュラースペースに電子密度の高い細胞外分泌物が生じること、この分泌物が分解されて娘細胞同士のつながりがなくなると、母細胞壁開裂後に娘細胞が解離して単細胞状態になることを明らかにした。細胞外分泌物の形成は内生胞子形成型のChlorella vulgarisや二分裂型のNannochloris bacillarisでは観察されないことから、S. bacillarisの娘細胞解離に遅れが生じる要因になっていると考えられる。 さらに、同じトレボキシア藻綱に属し、細胞塊や偽柔組織を形成するDilosphaea codatiiとPrasiolopsis ramosaの母細胞壁開裂の有無を調べた。D. codatiiは内生胞子形成型だが、母細胞壁が開裂後に密着したまま層状に重なる様子が観察された。Prasiolopsis ramosaは母細胞壁が開裂しないまま分裂を繰り返していた。以上の解析から、トレボキシア藻綱では、母細胞壁の脱ぎ捨てが起こらない、娘細胞同士の解離が起こらない、母細胞壁の開裂が起こらない、の3つのステップを辿ることにより、単細胞状態から糸状体化、細胞塊化を経て多細胞体へと体制を変化させたと予想される。
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