研究概要 |
本研究課題では,「キャノピーの視覚情報を利用して定位するベニツチカメムシのナビゲーション行動をモデル系として,1. キャノピー定位の行動的特徴を解明し,2. キャノピーがもつ複雑なギャップ群からいかにして方向視覚情報を絞り込むのかを明らかにする」ことを目的としている.本年度は,1. のキャノピー定位の行動的特徴を中心に明らかにした.天井に円形のギャップを開口させた箱形の大型野外実験アリーナによる行動実験から,他の定位システムとの階層性に関して以下の結果を得た.(1) ギャップから青空(偏光)が見える条件で出巣させ,帰巣前にギャップを移動させると,カメムシはギャップの移動に合わせて定位方向を変化させた.(2) 化学的マーキングとキャノピーによる定位情報をコンフリクトさせた場合,カメムシは化学的マーキングを優先した.さらに,ギャップの利用様式を明らかにする目的で,異なったサイズの2つのギャップが存在している場合,どちらかのギャップを選択して利用するのか,両方のギャップの位置関係から方向情報を得るのかを確かめた.大小2つのギャップを天井に開口させたアリーナでの行動実験から,以下の結果を得た.(3) この実験アリーナにおいて,カメムシは餌場に到達して種子を得た後,正確に巣へ定位した.(4) 餌場に到達した際に天井を180°回転させた場合,カメムシは巣とは180°反対の方向へ定位した.(5) カメムシが餌場に到達した際に180°回転させ,さらにギャップの位置関係が鏡面対称になるように天井を反転させた場合,カメムシはランダムに定位した.これらの結果は,ベニツチカメムシは大小2つのギャップの位置関係を識別でき,複雑なギャップの空間配置から方向情報を抽出する能力があることを明らかにしたものである.
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