我々は、最近、鳥類の脳から新規の神経ペプチドを同定することに成功した。詳しく解析したところ、この神経ペプチドは正中隆起外層に終末する視床下部室傍核ニューロンに局在しており、生殖腺刺激ホルモンの放出を抑制することが分かった。これは脊椎動物から初めて見出されたものであり、生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(Gonadotropin-inhibitory homlone ; GnIH)と名付けた。本研究では、GnIHの自律神経調節機構の詳細を明らかにすることを目的とした。平成20年度の研究により、1) GnIHが合成される間脳・視床下部の室傍核と延髄の迷走神経背側運動核との神経連絡、2)迷走神経背側運動核上でのGnIHの作用とGnIHレセプターの存在を確認した。本年度は、視床下部室傍核のGnIHニューロンが投射している迷走神経背側運動核の最終的な作用部位を解析した。胃や腸などの消化管に逆行性色素を注入した後に数日間飼育し、GnIH神経線維が密に投射している迷走神経背側運動核の細胞体が標識されるかどうかを観察した。その結果、消化管に投与した標識色素が迷走神経背側運動核の細胞体に検出できた。この標識された細胞体の周辺にはGnIHの神経線維が密に分布していた。このことから、間脳・視床下部の室傍核で合成されるGnIHが延髄の迷走神経背側運動核のアセチルコリン作動性ニューロンに作用し、その細胞が消化管運動を制御していることが示唆された。
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