平成20年度は、ワーカーのカースト転換を誘導する実験系の条件設定と神経生理実験のための行動解析を中心に行った。また、次年度に行う電気生理実験の予備実験も行った。詳細は以下の通りである。 ●生体アミンの経口摂取実験系における血中・脳内アミン動態の調査 セイヨウミツバチとフタモンアシナガバチを用いて、ドーパミンの経口摂取を行い、脳内への拡散と卵巣発達今の影響を調査した。その結果、両種とも1mg/mlの濃度で長期間(10日間)ドーパミンを摂取させた場合に、脳内ドーパミン濃度の有意な上昇が確認され、ショ糖のみを摂取させたコントロール個体よりも卵巣発達が促進された。このことから10日間程度のドーパミン経口摂取により、産卵ワーカー化が誘導できることが明らかになった。同じ濃度のドーパミンを4μ1経口摂取させ、時系列的にドーパミン量を解析したところ、2h以内の血中および脳内ドーパミン濃度の上昇は見られなかった。 セイヨウミツバチを用いてドーパミンを胸部にインジェクションした場合は、その直後から高い濃度の血中ドーパミンが確認され、代謝物質であるNーアセチルドーパミン濃度も上昇した。また、面中ドーパミンの上昇とほぼ同じ時間で脳内ドーパミンが上昇したことから、血中がら脳内へのドーパミンの拡散には、大きなタイムラグが無いことが分かった。 ●カースト転換期におこる同時並行的な行動転換の調査 セイヨウミツバチを無女王群条件下にして、攻撃性の高い個体(回転する黒いモデル物体に攻撃をした個体)とそうでない個体を採集し、卵巣発達の程度を調査したとごろ、攻撃性の高い個体で卵巣発達が進んでいない傾向は見られたが、統計的に有意な結果は得られなかった。しかし無女王コロニーの規模や季節の要因によって結果が変わりうる可能性があり、今後、実験操作によってこれらの要因を排除した追試を行う予定である。
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