平成22年度は、カースト転換期におこる運動系や感覚系のニューロンの形態的変化を調査し、生体アミン前駆物質の経口摂取による行動や代謝への影響を調査した。 ●カースト転換期に変化する運動系の調査 (1)産卵ワーカーの生殖器官(特に受精嚢)を支配する運動ニューロンをバックフィル染色し、その形態を女王と比較した。ワーカーの腹部終末神経節は前方の神経節と完全に分離するに対し、女王は融合する。産卵ワーカーにおいて、染色された運動ニューロンは細胞体のある腹部終末神経節から縦連合を経由して前方の神経節まで入力部位を伸ばしていた。女王では相同の運動ニューロンの細胞体は腹部終末神経節に位置し、融合している前方の神経節領域へ入力部位を伸ばしていた。入力部位の形態は女王の方が広い範囲で分布していた。 (2)産卵ワーカーの生殖器官の光学顕微鏡用切片を作成し、通常のワーカーと比較したところ、卵巣の発達に伴って中央輸卵管の半環状筋の発達が確認できた。側部輸卵管や受精嚢の発達は確認できなかった。 (3)生殖器官(特に膣内)に存在する機械感覚ニューロンを調査したところ、膣弁を支配する神経終末は確認できたが、機械感覚ニューロンの存在は確認できなかった。 ●チロシン摂取によるカースト転換の誘導 ドーパミンやチラミンの前駆物質であるチロシンを経口摂取することにより、脳内のドーパミン量やチラミン量が増加することが分かった。ドーパミン合成酵素活性が同程度の条件下で、DOPA経口摂取によりドーパミン量が上昇することから、DOPAの供給量の増加でドーパミン量が増加することが分かった。さらにチロシン摂取により、卵巣発達の促進や採餌個体化の抑制が起こった。これらのことから無女王ワーカーにおける餌からのチロシン供給量が脳内のドーパミン・チロシン量や産卵個体化に影響を与えることが示唆された。
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