キク科ハマベノギク属植物の形態的適応を明らかにするために、本年度は材料として、この属で最も一般的なヤマジノギク、高知県の海岸付近にのみ生息するソナレノギクおよび高知県の蛇紋岩地帯に特異的に分布するヤナギノギクを用いて、各形態形質計測を行った。ヤマジノギクはこれまで継続的に調査を行ってきた高知県高知市筆山の集団、ソナレノギクやヤマジノギクも同様にそれぞれ高知県幡多郡大月町の柏島の集団、高知県高知市一宮の集団を、約30個体ずつ用いて、比較解剖学的計測を行った。葉面積測定の結果から、ヤナギノギクはヤマジノギクと比較した場合明らかに小さくなっており、形態分化パターンが植物の様々な分類群で明らかとなっている渓流沿い植物の場合と類似していることが明らかとなった。またこの葉形態の分化の背景に細胞数および細胞サイズの減少が関与していることが明らかとなった。一方ソナレノギクに関しては、葉面積がヤマジノギクよりも有意に大きくなっていることが明らかとなり、また厚さに関しても有意に厚くなっていることが明らかとなった。このソナレノギクの葉形態の分化の背景に、細胞サイズが縦、横、高さ方向にそれぞれ拡大しているものの、細胞数はヤマジノギクと比べて有意に少ないことが明らかとなった。この結果から、ヤナギノギクとソナレノギクは共に細胞数を減らす戦略を行っており、これらの両者は細胞サイズの違いによってそれぞれの葉形態を獲得したことが明らかとなった。この葉の細胞サイズを決定する遺伝子はモデル植物を中心にいくつか単離されているために、これらと相同な遺伝子を単離して解析することが、ハマベノギク属植物の形態的適応を進化発生学的に考察するために重要であることが明らかとなった。
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