キク科ハマベノギク属植物の形態的適応を明らかにするために、本年度は材料として、この属で最も一般的なヤマジノギクと高知県の海岸付近にのみ生息するソナレノギクを用いて、葉の気孔と毛に着目して計測を行った。ヤマジノギクはこれまで継続的に調査を行ってきた高知県高知市筆山の集団、ソナレノギクは高知県幡多郡大月町の柏島の集団に加えて、豊後水道の沖ノ島や鹿島の島嶼群の集団を、それぞれ1個体から5枚の葉を1集団から約30個体ずつ用いて、比較解剖学的計測を行った。その結果から、ソナレノギクの毛の数と気孔の数には負の相関があることが明らかになった。特に、島嶼群の葉の毛の数が増大傾向にあることも明らかになった。本研究で用いたソナレノギクの島嶼群の個体は、ほぼ海岸線沿いから、また柏島の集団は、比較的に内陸から採集し検討を行ったことから、海岸線付近では気孔数が少なくなり葉の毛が増大する傾向が見られた。しかし、これらに関して葉の大きさや厚さといった形態に違いは認められなかった。近年、気孔に関する遺伝子はモデル植物を中心にいくつか単離されているために、これらと相同な遺伝子を単離して解析することが、ソナレノギクの形態的適応を進化発生学的に考察するために重要であることが明らかとなっただけではなく、海岸地適応に関する研究の一般性を考察するためにも、本研究の解剖学的研究結果が、他の被子植物の海岸地適応でみることができる現象であるか検討する必要があることが明らかとなった。
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