動物地理区の東洋区と旧北区の境界に位置し、火山活動によって形成された奄美諸島と大隅諸島の間に位置するトカラ列島の各島嶼へのクワガタムシ科甲虫の侵入経路や侵入時期などを明らかにすることを目的として、本年度もトカラ列島の各島嶼およびその周辺地域における現地採集調査を行うとともに、分子系統学的・分子集団遺伝学的解析と比較形態学的解析を行ない、その様相を詳細に調査した。まず、現地採集調査はトカラ列島を管轄する十島村から調査採集許可を取得して、中之島、平島、諏訪之瀬島、小宝島、宝島の有人島5島に加えて、現在無人島となっている臥蛇島についても入島許可を取得し現地調査を行い、分子および形態解析に用いる各種クワガタムシ科甲虫他のサンプル採集を行った。また、トカラ列島と比較を行うサンプル確保のために、周辺地域のうち北側に位置する大隅諸島の屋久島と口永良部島で調査を行ない、解析用の各種クワガタムシ科甲虫他のサンプル採集を行った。これらの調査の採集記録等の一部を学会誌・学会大会にて発表した.さらに、本年度までに採集した各種クワガタムシ科甲虫のサンプルを用いて、分子系統学的・分子集団遺伝学的解析と比較形態学的解析を行なった。主にミトコンドリアDNA遺伝子を用いた解析により、クワガタムシ科は種によって南北から移入経路に相違があり、さらに種および島嶼によって周辺地域の集団との遺伝的分化の程度の違いが生じていることが明らかになった。特にリュウキュウノコギリクワガタは、奄美諸島地域からの複数回の侵入により各島嶼に定着したと考えられ、さらに島嶼間での集団間の遺伝的分化も見られた。また、各種の外部形態の計測に基づき各島嶼間の比較形態学的解析を行った。
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