本研究は、先島諸島のハシブトガラスに見られる、ごく近接した島嶼間での著しい体サイズ変化の原因を探ることを目指している。先島諸島南部の八重山諸島には、これまで単一の亜種オサハシブトガラスが分布すると考えられてきたが、本年度までの調査の結果、同諸島の波照間島.黒島のものと西表島・石垣島のものは、両者を隔てる海峡がわずか10~20kmほどの距離しかないにもかかわらず、有意な体サイズの違いを示すことが明らかになった(前者の方が大型である)。観察された違いは、本種の既知の亜種間の差をしのぐほどのものであった。なお、mtDNAコントロール領域310bpを用いた解析では、島間の大きな遺伝的分化は検出されなかった。本年度は、追加サンプルを入手し、体サイズの変化以外にどのような形態学的特徴の変化が起きているかを詳細に調査したが、波照間島の集団は、西表島・石垣島に比べ、1)目の角度がより横向きになっていること、2)嘴が相対的により長くなっていること、3)大腿骨に対して脛足根骨がより長くなっていることが明らかになった(黒島の集団については現在調査中である)。さらに、ラインセンサスと、ビデオ撮影による採餌行動の観察を実施したところ、波照間島・黒島の集団は、西表島・石垣島の集団に比べ、よりオープンなハビタットを好むこと、それに関連してプロービング(地面に嘴を差し込んで餌を探す採餌メソッド)を多用すること、地上滞在時間が長いことが明らかになった。ヨーロッパのカラス科鳥類の研究によって、プロービングの頻度が高いものほど、体サイズが大きく、目が横向きで、嘴が長くなる傾向があることが示されている。また、一部鳥類においては、地上滞在頻度の高いものほど大腿骨に比べて脛足根骨が長くなることが知られている。八重山諸島における本種の地理的変異は、プロービングの頻度、地上滞在時間の変化と関連して生じた可能性がある。
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