2009年度は分布・遺伝子流動の実態がまったく知られていない地中生配偶体の調査を本格的に進めるための予備的調査、分子マーカーの開発及び技術的問題の克服に焦点を絞って研究を行った。野生ハナワラビ属(ハナヤスリ科)胞子体集団の周辺土壌から塊状地中生配偶体を分離する方法について検討を行った。また同様に地中生配偶体を持つマツバラン(マツバラン科)についても土壌からの配偶体分離を試みた。分離した配偶体からDNAを抽出し、既存の葉緑体・核の分子マーカーを用いて予備的な解析を行った。また、フローサイトメーターを用いたゲノムサイズ(倍数性)測定も行った。いずれも、解析手法については配偶体においても胞子体とほぼ同様の良好な結果が得られ、地中生の配偶体であっても解析に支障がないことが確認された。核DNAマーカーについては、既に研究代表者が開発済みであったGapC領域の1組のプライマーに加え、同じ遺伝子の別コピーを増幅するプライマーを開発した。これらのマーカーを用いて、分類群の定義が不明確な日本産ハナワラビ属オオハナワラビ属の各分類群の遺伝的な解析を行った。現時点の結果では、エゾフユノハナワラビやアカフュノハナワラビの両分類群は遺伝子型から定義するのが難しく、さらにマーカーを増やして解析を進める必要のある分類群と言える。また、オオハナワラビは、伊豆諸島・関西・四国・九州の各地から材料を収集して解析した結果、国内に複数の遺伝的実態があることが示唆され、サンプリングの充実が必要である。
|