茨城県つくば市の筑波実験植物園内落葉広葉樹林下に自然状態で形成された胞子体の3種混生集団(オオハナワラビ・フユノハナワラビ・アカハナワラビ、南北約17m・東西約22m)を用いて、地中生配偶体集団の解析を開始した。土壌からの配偶体採集方法についても検討を重ね、ステンレス枠の打ち込みによる層別の土壌の採取、ショ糖を加えた遠心分離による配偶体の分離法を確立した。採集した配偶体は形態観察後半分に切断し、DNAの抽出を行った。上記3種は葉緑体DNA trnL-F領域の変異を用いて識別可能であることが既にわかっていたため、約50個体の配偶体について塩基配列を決定して、予備的に分子同定を行った。その結果、アカハナワラビ・オオハナワラビの両種の配偶体が見出され、中には空間的に近接して2種の配偶体が存在している例も見出された。 一方、遺伝子流動を解明するためには、配偶体側だけでなく胞子体側の空間分布も明らかにする必要がある。そのため、胞子葉サイズが3cm以上の全個体について、地点・サイズ・胞子葉の有無を調査した結果、アカハナワラビ1103個体、オオハナワラビ486個体、フユノハナワラビ100個体の合計1689個体が確認された。そのうち胞子葉をつけた繁殖個体はアカハナワラビ40個体、オオハナワラビ31個体、フユノハナワラビ41個体とほぼ同数であった。胞子体と配偶体の分布とを比較すると、配偶体は幼胞子体が多い地点で多数発見される傾向がみられたが、種毎の分布パターンの差異については配偶体の個体数を増やして今後検討する必要がある。
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