昨年度の筑波実験植物園内調査区(南北17m、東西22m)におけるハナワラビ属配偶体・胞子体分布調査結果に基づいて、調査区内全体に土壌調査地点計30箇所を設けて、土壌の採取を行った。昨年度は10×10cmステンレス枠を用いて土壌の採取を行っていたが、解析効率の向上のため、サイズの5×5cmに変更した。採取した土壌を1cmの層別に分け、水とスクロース溶液中で遠心分離した結果、配偶体は調査区内の東側に局在していることが判明した。調査区内の東側と西側では木本の種構成が異なっており、それに伴って土壌の環境にも相違があることが予想された。また、胞子体の分布は西側に多く東側に少ない傾向が見られ、ハナワラビ属の集団自体が徐々に移動していくことを示唆する結果と考えられる。採取された地中生配偶体からDNAを抽出し、葉緑体trnL-F領域を用いた分子同定を行った結果、少なくともアカハナワラビとオオハナワラビ2種は地中でも配偶体が空間的に近接して生育していることが明らかになり、地中での種毎の明確な棲み分けは観察されなかった。このことから地中で配偶体の分布密度が高い場合に、2種の配偶体が偶々近接して生育し、精子が僅かな距離を泳ぐだけで種間雑種が形成され得ることが考えられた。この可能性を確実に実証するために、個体識別が可能な分子マーカーが必要であることから、次世代シークエンサーによる解析を行って塩基配列データを得た。多数の種間雑種が知られている伊豆諸島での遺伝子流動解析を行うには至らなかったが、実際の解析が可能な段階まで調査/実験法の確立を行うことに成功した。
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