研究概要 |
さまざまな環境に進出し多様化を遂げた植物の大部分が,菌と共生する.本研究では,地上から樹上へと進化した着生植物に着目し,着生植物の進化に菌がどれほど関与したかを推定することを目的に,ラン科クモキリソウ属,ツツジ科スノキ属を対象に,植物の分子系統解析,及び各植物から共生菌を単離し,菌の遺伝子解析や,共生培養により菌が植物の生育に与える影響を調査している.ラン科クモキリソウ属では,着生種フガクスズムシから単離された共生菌の核遺伝子のITSの塩基配列は,地生種クモキリソウの菌とはわずかながら異なることが明らかになった.また,単離された菌と両植物の共生培養を行った結果,菌の違いにより,植物の影響も異なっていた.そのため,菌の分化がフガクスズムシの着生化と関与していると推定された.本研究で行った,菌の分化と生育環境の分化を実験検証は,おそらく世界で初めてで,今後さまざまな生育環境の分化と菌の影響調査への発展性が見込まれる.また,この研究過程で明らかになった新種について記載した.ツツジ科スノキ属では,複数の植物種について,葉緑体と核の遺伝子を用いて系統解析をおこなった.結果,着生種アクシバモドキの近縁種は,地生種ウスノキやスノキであることが推定された.これらの根から菌を単離し,菌の分子同定をすすめている.このうち一部の菌は,核遺伝子ITSの塩基配列から,cryptosporiopsisの仲間と推定され,着生種でも地生種でも同じ配列をもつ菌が検出されてきている.現在さらなる解析を行っている.
|