オロチジンーリン酸脱炭酸酵素(ODCase)が反応を触媒する際の時系列に沿った構造の変化をとらえ、そこからこの酵素の反応触媒機構を明らかにする目的として、研究に取り組んだ。実験試料としては、M. thermoautotrophicus由来ODCaseを用いた。始めに、この酵素が6-cyano-UMPをBMPに変換する副反応について、反応進行中の結晶を瞬間凍結することによって、反応進行にともなう基質の構造変化をとらえた。反応中間体構造では、6-cyano-UMPのcyano基はODCaseとの複合体中でpyrimidine環平面から大きく屈曲しており、その後hydroxy基に置換されることが明らかになった。同様の屈曲構造は、ヒト由来ODCaseの活性中心変異体と主反応の基質OMPの複合体構造でも観察されており、ODCasdはその反応を触媒する過程で、基質を強く歪めて反応を進行させることがわかった。 また、活性中心残基の役割を調べるために、D70AやD75N変異体を用いたところ、K72のアミノ基が6-cyano-UMPのcyano基を置き換え、酵素と基質の間に共有結合が生成することがわかった。同様の共有結合は6-iodo-UMPや6-azido-UMPと野生型ODCaseの複合体でも生じた。 ODCaseの主反応は求電子様の反応である脱炭酸反応であるが、本研究で明らかになったcyano基やiodo基の変換および共有結合生成反応は、いずれも求核反応である。以上のことから、ODCaseは求核・求電子問わず様々な反応を触媒し、いずれの場合においても基質を強く歪めて反応を進行させることがわかった。以上の成果はJ. Mol. Biol.誌に発表した。
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