ヌクレオチド除去修復(NER)は、様々なDNA損傷を修復する、極めて重要な修復機構であり、その遺伝的欠損は色素乾皮症(XP)などの疾患の原因となる。特に、原因遺伝子産物の一つであるXPCを含む複合体(XPC複合体)は、損傷DNAの構造異常を特異的に認識することにより、修復反応開始時に重要な役割を果す。さらに、XPCは修復時に活性化されるユビキチンリガーゼ(Clu4A複合体)によりユビキチン化される。このユビキチン修飾が、XPC複合体のDNA損傷認識を促進することが明らかにされているが、その後の修復反応において、どのような役割を果しているのかは殆どわかっていない。そこで、本研究では、ユビキチン修飾によるXPC複合体のDNA損傷認識の調節機構を、生化学的および構造生物学的解析を通じて、解明することを目指した。生化学的解析では、昨年度までに、ユビキチン化が大方おさえられた変異体を作成することができたので、今年度は、残っているユビキチン化部位(三箇所)の同定を試みた。DISOPRED2によるDisorder領域の予測や予備実験より、N末端側の残基番号118から322の領域中に残りのユビキチン化部位があると推定し、完全にユビキチン化されないXPC複合体の作成を目指した。しかし、現時点では、完全にユビキチン化がおさえられた変異体は得られていない。現在も引き続き、残っているユビキチン化部位の探索を行っている。構造生物学的解析では、今年度は、XPC複合体の構成因子centrin2がXPCの損傷DNAの認識を促進することに着目し、XPCとcentrin2と損傷DNAの三者複合体の解析を目指した。既に報告されているXPCの出芽酵母オルソログRad4を含む複合体と損傷DNAとの複合体結晶構造を参考にして、centrin2及び損傷DNAの認識領域を含むXPCのコンストラクトを作成した。大腸菌のコールドショック発現系を用いた場合においてのみ発現がみられたが、精製過程において目的タンパク質が沈殿してしまい、解析するに至らなかった。コンストラクトの最適化も試みたが、改善されなかった。
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