本研究は、多様な転写制御に関わるヒストンのメチル化に注目し、メチル化酵素を生化学的、構造学的な手法によって調べることで、メチル化修飾による転写制御の調節機構についての新たな知見を得ることを目的としている。特にメチル化酵素が他の分子によって活性制御を受ける、あるいは他のヒストン修飾等により制御を受ける現象に注目することで、ヒストンメチル化の新たな調節メカニズムの提案を目指すものである。 平成20年度においては、ヒトのヒストンメチル化酵素であるMLL蛋白質及び、MLLと相互作用するヒストンメチル化関連蛋白質HPC2の構造学的解析、相互作用解析を行った。NMR法を用いた実験からMLLとHPC2の相互作用する領域を決定し、MLLのCXXCと呼ばれるドメインがHPC2のクロモドメインと直接相互作用する事を発見した。MLLのCXXCドメインはDNA結合ドメインであり、MLLをメチル化する予定のゲノム領域にリクルートする役目を持っている。このCXXCドメインがアミノ酸変異したMLLは、本来メテル化するべきゲノム領域に対するメチル化能が失われることが知られている。HPC2のクロモドメインはこの領域に結合することから、HPC2はMLLに結合することでMLLのメチル化能を調整している可能性が考えられた。そこで、まずはこの分子間相互作用メカニズムを明らかにするため、MLL CXXCドメインとHPC2クロモドメインのX線結晶構造解析を行い、それぞれドメイン単独で立体構造を決定することに成功した。平成21年度は、それぞれのドメインの機能がこの相互作用によりどのように変化するのかについて解析を進める予定である。
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