ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は細胞質においてプレ配列がN末端に付加された前駆体蛋白質として合成される。プレ配方は15から70残基程度であるがその配列は多種類存在し、約5残基からなるコンセンサス(φχχψφ:φは疎水性残基、χは任意のアミノ酸残基)が明らかにされている。このプレ配列を最初に認識するのがミトコンドリア外膜に存在するTom20タンパク質である。そこでTom20が持つプレ配列への広い選択性を構造基盤の観点から明らかにすることを目的とした。弱い相互作用を克服するために、プレ配列中で分子内ジスルフィド結合を形成させ、ヘリックス構造を安定化する試みを行った。昨年度は、D型システインとL型システインを挿入しジスルフィド結合を形成させたが、硫黄原子間の結合距離が短すぎたためにヘリックス構造に歪みが生じていた。そこで本年度はD型システインに変わり、Homo-ホモシステインを挿入したペプチドを用い実験を行った。このペプチドもTom20に対する親和性が向上していることをNMR滴定実験によって確認した。約300種類の条件で結晶化スクリーニングを行ったところ、複合体での結晶が得られた。放射光施設でX線結晶構造解析実験を行った結果、高分解能での複合体構造の決定に成功した。その結果、これまで報告した複合体構造と比較してTom20とプレ配列の相対的な位置関係はほぼ一致していたが、側鎖レベルでは異なる相互作用様式が用いられていた。新たな相互作用様式の構造が得られたことは、これまでに提唱している「Tom20によるプレ配列の動的認識モテル」を支持する結果である。
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