多細胞動物において、栄養状態に応じて個体の成長とエネルギー恒常性を協調的に調節することは生存に必須の生命活動である。例えば、人間を含む多くの動物は貧栄養状態に応答して、個体の倭小化や成長・性成熟などを遅滞させるだけでなく、寿命を延ばすこともある。また、エネルギー恒常性の破綻は、糖尿病や循環器疾患に深く関連している。近年、個体レベルにおいて発生とエネルギー恒常性を協調的に制御する重要なシグナル伝達経路として、インスリン/IGF経路(以下「IIS経路」)とAMPK(5'-AMP activated protein kinase)経路が注目されるようになった。 私は、AMPKやIIS経路が、飢餓または摂食時に、どの組織でどのような生理機能を担っているか、平成20年度の研究において線虫を用いて探求した。IIS経路に関してはdaf-18/PTENの変異体を用いた解析から、飢餓時において、表皮と腸の細胞でIIS経路を抑制するのが恒常性の維持に非常に重要であることを示唆する結果を得た。また、daf-18/PTENの変異体や∂akt-1/AKTの恒常活性化体を用いた研究より、表皮におけるIIS経路の活性が、表皮や筋肉の幹細胞の発生プログラムの進行を制御することを示唆する結果を得た。AMPKに関しては、腸と神経系において何らかの飢餓応答を担うことを示唆する結果を得ている。現在、AMPKが感覚神経において、機能していることを示唆するデータを得ている。過去の大部分のAMPKに関する研究は、筋肉や脂肪組織などの末梢組織における生理機能を対象としており、神経でのAMPKの研究はあまり例がない。興味深いことに、AMPKは感覚神経で機能することを示唆するデータを最近得ており、今後、どのような遺伝学的経路を介して、どのような飢餓応答を制御しているかを明らかにすることにより、AMPKの新たな生理機能を見いだすことができるかもしれない。
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