低分子量GTP結合タンパク質κB-RasはNF-κB制御分子であるIκBの結合分子として同定され、NF-κBの活性化を阻害するRasファミリーのひとつとして報告された。NF-κBは、活性化刺激によるIκBとの複合体の解消により活性化されるが、κB-RasはIκBの分解を抑制する事によってNF-κBの転写活性を抑制する事が報告された。しかし、その正否を含めて詳細なNF-κB抑制の分子機構は明らかにされていない。本研究は初年度において、κB-RasのNF-κB抑制の分子機構を解明することを目的とした。私達が作成したポリクローナル抗体を用いた解析により、κB-Rasはユビキタスに発現し、しかもその細胞内局在は核内であることが明らかとなった。κB-Rasは細胞内において主にGTP結合型であることが分かった。次にκB-Rasの変異体T18Nを作成したところ、T18N変異体はGTPに対する結合活性を示さず、しかもその細胞内局在は細胞質であり、κB-Rasは結合するグアニンヌクレオチドによってその細胞内局在を変化することが分かった。レポーターアッセイではκB-RasおよびTI8N変異体の過剰発現はTNF-αによるNF-κBの活性化を顕著に抑制した。一方、TNF-αにより誘導されるIκBの分解はκB-RasおよびT18N変異体、どちらの発現によっても弱い抑制効果を示したが、その効果はNF-κB活性化に対する阻害効果と比較して非常に低く、IκBの分解制御のみではこの阻害効果は説明できなかった。さらにp65/RelAあるいはGAL4DBD-RelAの過剰発現たよるNF-κBの転写活性を検討したところ、κB-RasおよびT18N変異体は共に強い阻害効果を示し、κB-RasがIκBの安定化よりもむしろp65/RelAなどNF-κB自身の転写活性に対して影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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