低分子量GTP結合タンパク質κB-RasはNF-κB制御分子であるIκBの結合分子として同定され、NF-κBの活性化を阻害するRasファミリーのひとつとして報告された。NF-κBは、活性化刺激によるIκBとの複合体の解消により活性化されるが、κB-RasはIκBの分解を抑制する事によってNF-κBの核内移行を抑制する事が報告されている。しかし、昨年度、本研究はκB-RasがIκBの安定化よりもむしろp65/RelAなどNF-κB自身の転写活性に対して影響を及ぼしている可能性を示した(論文投稿中)。κB-Rasはその結合するグアニンヌクレオチドによってその細胞内局在を変化する。GTP結合型κB-Rasの機能を明らかにするため、κB-Rasの活性に影響を与えるシグナルを探索した。その結果、がん遺伝子RasがκB-RasのGTP結合能を正に制御することを見出した。さらにがん遺伝子型RasはκB-Rasの核内への局在を促進することが示され、この結果はκB-RasがGTP結合型のときに核内への局在が促進される以前の観察とよく一致した。さらに野生型κB-RasおよびGDP結合型であるκB-Ras(T18N)変異体のがん遺伝子型Rasの発がんシグナルへの影響を検討した。野生型κB-Rasはがん遺伝子型Rasによるマウス線維芽細胞の形質転換能を著しく促進したが、T18N変異体にはそのような効果は観察されなかった。以上の結果からκB-Rasはがん遺伝子型Rasの下流シグナルに位置し、がん遺伝子型Rasのがん化シグナルにおいて重要な役割を果たしていることが示唆された。
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