本研究はモータータンパク質が細胞内の込み合った環境下で細胞骨格フィラメント上をどのように輸送するかという機構を理解する事を目的としている。その手法として、種々のモータータンパク質の組み換え体を作成し、蛍光粒子結合させる。それらがセミインタクト細胞(細胞膜に穴をあけることで細胞骨格を保ったまま細胞内の溶液が置換可能になった細胞)内で、どのような細胞骨格フィラメントの経路を通って、どのように移動するかを、3次元的に追跡することができるシステムを構築する。この新規のシステムにより、今まで困難であった時空間的な細胞内輸送を細胞骨格の形態や結合タンパク質などの制御因子と関連させて解析できるようになると期待される。 1、前年後ではキネシン・ミオシン・ダイニンの活性部位(モータードメイン)の組み換え体が得られた。モータードメインは、様々な制御因子を排除でき、モータータンパク質の基本的な運動機能を測定・解析するには非常に有用である。一方、細胞内では、これらの制御因子も含めて解析しなければいけないため、タンパク質の全長を発現する事が必要になり、その発現に挑戦をした。一般的に、モータータンパク質の全長の発現は困難であるが、今回、その発現・精製に成功した。3種の哺乳類型モータータンパク質の組み換え体を利用できる研究室は世界的にも例がなく、この成果は、本研究においてだけではなく、従来の生化学的・生物物理学的手法によるモータータンパク質そのものの運動活性の研究にも役立つと期待される。 2、モータータンパク質・蛍光粒子を乳ガン細胞由来のセミインタクト細胞に導入し、2焦点解析法により細胞内の3次元的な移動の観測に成功した。しかしながら、セミインタクト細胞内での1分子追跡によりモーター分子の微小管の乗り換えは観測できたものの、3次元への移動はほとんど観測されなかった。今後はこの原因について検討したい。
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