モータータンパク質には、ダイニン、キネシン、ミオシンなどがある。ミオシン及びキネシンは、すでに原子レベルで結晶構造が明らかにされているが、ダイニンのモータードメインの原子レベルでの構造解析の例は、ごく最近に明らかになった酵素であるSRS(seryl tRNA-synthetase)とダイニンのモータードメインのストークドメインを融合させた蛋白質の構造解析の1例しかない。その構造は、微小管に弱く結合する状態で、微小管に強く結合する状態の構造は分かっていない。細胞質ダイニンは、キネシンやミオシンと同じモータータンパク質の1つで、微小管上をマイナス端方向に移動し、細胞内小胞輸送、細胞分裂時における染色体の分離など、多様でかつ重要な生物学的役割を担っている。本研究課題では、実際に微小管と相互作用するストークドメイン(coiled-coil領域+ストークヘッド)に注目し構造研究を進め、微小管に強く結合する状態の構造を明らかにすることでダイニン分子の微小管の認識メカニズムを明らかにすることを目的としている。そこで、様々な長さのマウスダイニンストークドメインを大腸菌で発現・精製し結晶化条件の探索を行った。その結果、277残基のコンストラクトで、ポリエチレングリコール4000を結晶化剤とする条件下で再現性良く棒状の結晶を得ることに成功した。セレノメチオニン化した蛋白質の結晶を作成し、シンクロトロン放射光でX線回折強度データの収集を行い(分解能=2.9Å)、多波長異常分散(MAD)法を用いて解析を行ったところ、coiled-coilの領域の部分構造を得ることができた。得られた部分構造は、報告されているcoiled-coilと比較するとセレンの異常分散効果から計算されるメチオニン残基の位置がずれており、coiled-coilの領域が異なる2状態をとりうることを示すことができた。
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