現時点で最も有力なタンパク質立体構造予測法として知られているフラグメントアセンブリ法の予測精度向上と立体構造構築原理の理解のために、局所構造の物理化学に着目した観点から研究を行った。具体的にはフラグメントアセンブリで使われる10残基程度のフラグメント構造を物理化学的に予測するための新しい溶媒モデル"ゴーストウォーターモデル"の構築と改良を行った。このモデルを用いて局所構造予測と局所構造の天然構造安定性評価をおこなったところ、水を考慮しないモデルと比べるとゴーストウォーターの導入によって飛躍的に予測精度が向上した。また、このモデルはもともと局所構造予測のために開発されたものであるが、タンパク質の全体構造の安定性評価としてのベンチマークテストを行ったところ良好な結果を得た。中でも、97%配列が一致しているにも関わらず構造が全く異なるタンパク質に対しても、我々が開発した手法では正しく構造を選択することに成功し、この方法の有効性を確認できた。他方、このような局所構造から全体構造を構築するアプローチの限界と問題点を洗い出すために大規模ベンチマークを行ったところ、局所構造としては極めてめずらしい形の構造が天然構造にあるようなターゲットに対しては、フラグメントアセンブリ法では限界があることが明らかとなった。このような問題を解決するために、フラグメントアセンブリ法とは逆の発想のアルゴリズム、すなわち大局的構造から局所構造が決まる、という方法論の開発に着手した。予備的なベンチマークではフラグメントアセンブリ法では予測が難しかったβシートタンパク質に対していくつか良好な予測結果を得た。
|