20年度は現有の赤外分光装置に赤外レーザーを組み合わせて時間分解赤外振動分光システムの作製を行なった。赤外白色レーザーはフェムト秒レーザーを数種類組み合わせて発信させた。安定化の為に、温調、湿度のコントロールを行った。また種となるレーザーの電源ノイズを極力減らした。その結果、中赤外域(1000cm^<-1>-2000cm^<-1>)で400cm^<-1>の幅を持つ安定な発振に成功した。さらに測定に使われる全ての機器を一台のコンピューターで制御するプログラムを新たに作成した。またコンピューター内部の電源を源泉とするノイズが測定結果の悪影響を及ぼすことが明らかにし、このノイズを極限にまで減らす工夫を行った。これらにより精度の高い繰り返し積算が行なえるようになった。中赤外領域での赤外分光においては空気中の二酸化炭素と水蒸気がスペクトルの質を大きく低下させる。我々が目指している蛋白質由来の微弱信号を精度良く測定するためには、水蒸気由来の信号の影響が大問題となる。そこで測定システムすべて覆うチャンバーを作成し、脱気/乾燥窒素ガス充填を繰り返すことで測定系の相対湿度をほぼ0%にすることに成功し、スペクトル上から二酸化炭素、水蒸気の信号を完全に取り除いた。蛋白質は緩衝液に懸濁されているが、H_2Oの信号は4x10^<-3>A/℃の温度依存性があり、この温度依存性は微小変化の追跡には許されないふらつきとなる。そこでセルと恒温槽と組み合わせて温調、恒温を可能とする新しいセルを設計、製作した。この装置を用いて光路長50μmのセルを用いて緩衝液中の存在するチトクロムcの酸化還元差スペクトルの測定に成功した。ここにフェムト秒赤外白色レーザーを光源とした赤外分光装置が完成した。
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