リボソームの機能発現とダイナミクスの関係を調べており、そのために質量分析法を用いた反応中間体の水素/重水素(H/D)交換実験を行っている。本年度はリボソームの反応中間体実験には欠かせないMg^<2+>イオン濃度変化とリボソームダイナミクスの研究について雑誌報告することができた(研究発表を参照)。核酸を主要構成成分とするリボソームはMg^<2+>イオンによって偏った負の電荷を中和し、その構造を安定に維持しているが、多量に存在しすぎるとかえって活性を落とすことが知られている。そのメカニズムは長らく議論されてきたが、今回発表した論文においてMg^<2+>イオン濃度に依存したリボソームのダイナミクス(柔軟性)の変化が、その一因となっていることを示した。またMg^<2+>イオン濃度が薄くなるにつれてtRNA結合部位を中心にリボソームはダイナミクスを増すことが分かり、インデュースドフィットメカニズムの存在が示唆された。加えてM/D交換の結果を複合体形成のアセンブリーマップと比較することで、アセンブリー後期に結合する蛋白質が低Mg^<2+>イオン濃度でもがっちりと固い構造を維持することで、ダイナミックに動くようになったリボソームの構造を安定に保っていることも分かった。それらの実験と並行して、測定法について微小反応場を目的としたマイクロリアクターを用いてラピッドクエンチングを行うことで、より機能発現に近い時間スケールでの動きを捉えるデバイスの設計を試みている。今年度で17msのクエンチングに成功し、これまでは見えなかった交換プロファイルが得られ、さらなる高速クエンチング設計が可能であることも分かった。
|