リボソームが蛋白質合成反応を行う際に引き起こされる溶液中での構造変化を、実際に働いている時間スケール(ミリ秒)で捉えるために、H/D交換と質量分析計用いてその変化を検出し、リボソームの反応機序とダイナミクスとの関係を解明すべく研究を行った。転移過程でのLockとUnlock状態においてクライオ電子顕微鏡では30S複合体のNeck領域をHinge centerとしてHead領域のswiveling motionが起こると報告されているが、H/D交換においても新たに行った分子の動きだけを抽出する解析法を導入することで、20ミリ秒時間スケールの溶液中でそれらを裏付けるような、Neck領域の蛋白質が極度に変化する結果が得られた。また50S複合体においては、これまでに知られていなかったHeadからtRNAやmRNAの導入口周辺にかけての広い領域で、極度に動かなくなっているという結果が得られた。それらの実験と同時に開始複合体や抗生物質を用いた実験にも着手している。加えて、より速い動きを捉えるため、より時間分解能の高い検出を可能にするためのマイクロリアクターチップ開発を行った。材質はポリジメチルシロキサン(PDMS)で、これまでの流路設計を大幅に見直した結果、反応流路を5nLにまで小さくすることで5.5ミリ秒の動きを捉えることができる装置が完成した。現段階でさらなる混合効率の高い反応条件を検討する必要があるが、この装置によりリボソームのより速い構造変化を捉えることが可能となった。
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