研究概要 |
Cu, Zn-superoxide dismutase(SOD1)は生体内酸化ストレスの軽減に関わるタンパク質だが、アミノ酸変異が生じると神経難病の一つである筋萎縮性側索硬化症(ALS)の原因となる。現在までに同定されたSOD1のアミノ酸変異は100種類以上にのぼり、それらは共通して、不溶性のSOD1凝集体の形成を促進する。さらに、SOD1凝集体が神経細胞内に蓄積することでさまざまな細胞機能が低下し、ALSが発症するのではないかと考えられている。これまでの研究において、アミノ酸変異によるSOD1の構造安定性の低下が凝集の引き金になることが示唆されてきた。しかし、凝集に伴うSOD1の構造変化、あるいは凝集体の分子構造については明らかとなっていない。タンパク質は、ある特定のアミノ酸配列(コア領域)を相互作用部位として分子間で会合を行い凝集する。一般に、コア領域は凝集体構造の内部に埋もれ、プロテアーゼによる分解を受けにくいことが知られている。そこで、SOD1凝集体におけるプロテアーゼ耐性の領域を質量分析法により同定し、SOD1が凝集する際に重要となるコア領域を決定した。その結果、SOD1のアミノ酸配列において3つの領域が凝集体のコア形成に関与しており、それらは変異体によって異なっていることが分かった。つまり、SOD1凝集体の分子構造は変異の種類に依存しており、SOD1凝集体の形態や生化学的性質の相違を生む要因であることが示唆された。実際、ALS患者において、罹病期間や発症部位といった病態は変異の種類に依存していることを考慮すると、SOD1凝集体の分子構造は疾患表現型の制御因子の一つになりうるのではないかと考えている。
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