フィコリンは自然免疫において、異物認識タンパク質として働く生体防御レクチンの一つであるが、その異物認識機構については不明な点が多い。我々は、ヒトM-フィコリンの異物認識ドメイン(FD1)の構造機能研究から、その多量体形成と、基質結合部位におけるpH依存性の活性型-不活性型間2状態構造平衡が、その自己-非自己識別に重要であるというモデルを提唱している。本研究では、この2状態構造平衡モデルを基にM-フィコリンの異物認識機構を解明することを目的とした。FD1およびその変異体の調製には、グラム陽性菌のBrevibacillus choshinensis分泌発現系を用いた。まずFD1の変異導入実験から、そのpH依存基質結合活性は、His-251、His-284およびHis-297の3残基により制御されていることを明らかにした。また、三量体形成に関わるPhe-127およびLeu-128の変異導入により単量体化したFD1は、三量体FD1に比べ、基質結合能が極めて低いことが分かり、三量体形成が基質親和性を高めることを確認した。続いてFD1の基質結合・解離実験から、FD1は水溶液中で、活性型-不活性型の2状態間で常に交換しており、その平衡状態はpHに依存して変化することを証明した。さらに詳細な情報を得るためには、FD1のNMR解析が不可欠であると考えた。そのためにはFD1の安定同位体標識試料を作成する必要があるため、その方法がまだ未開発であった B. choshinensisによる組換えタンパク質の安定同位体標識法の開発を試みた。その結果、C.H.L.培地を用いることで、均一およびアミノ酸選択的安定同位体標識試料調製法の開発に成功した。この方法を用いて、FD1の均一およびアミノ酸選択的^<15>N標識試料の作成、さらにそれらの^1H-^<15>N HSQC NMRスペクトルの取得にも成功し、現在解析を進めている。
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